警察署からの依頼を受けて、身元不明遺体の歯科所見と治療時のカルテやX線写真などを照合し、身元の確認を行う歯科医師は、以前からそれぞれの市町 で活動していましたが、昭和60年の御巣鷹山の日航機墜落事故を契機にその社会的な認知度が高まり、静岡県でも歯科医師会を母体として『警察歯科医会』が 組織されました。

また、平成23年3月11日に発災した東日本大震災では、大地震と大津波により、かつてない程の多くのご遺体が発生し、身元の特定が難しい状況とな りました。歯科医師会では警察庁からの要請を受けて、歯科所見による身元確認のために、当初の5ヵ月で延べ2,600名の歯科医師を全国から動員し、約 8,750体の歯の状態を調べて照合作業にあたりました。しかしながら、津波によって歯科医院のカルテやX線写真などが流失したため、被災地の歯科医師会 と警察署が結束して行った、生前の歯の情報を集める作業と、収集したデータをパソコンへ入力する作業は困難を極めました。

ご遺体の個人識別に用いるデータには、歯科所見、指掌紋、DNA型などがありますが、身元確認作業が長期化したことから、主として歯科所見とDNA が用いられ、とりわけ歯科所見の有効性が改めて広く証明されました。2001年のニューヨーク世界貿易センタービルの際にはご遺体の約35%、2004年 のスマトラ島沖地震によるタイの津波災害では約56%が歯科所見により身元確認ができたとの報告があります。歯は乳歯で20本、永久歯で32本(親知らず 含め)ありますが、これら全ての歯の状態が近似している確立は極めて少ないのです。

最終的には、かかりつけの歯科医院から生前のカルテやX線写真を取りよせて、われわれ歯科医師が照合作業にあたりますが、その前段として、ご遺体の 歯の状態と生前の歯の状態から「絞り込み」を行うことができます。東日本大震災の身元確認の現場でも、数百体のご遺体から数体の候補に絞り込むことができ ました。特に宮城県では、東北大学の青木副学長が開発し、「デンタルファインダー」と命名した照合解析ソフトを活用したシステムが稼働し、大きな成果を上 げました。

大きな災害などの際には、「一体でも多くのご遺体を、いち早くご遺族のもとへお返しする。」ことが強く求められます。そのためには、東日本大震災の 経験を風化させることなく、県民の皆さんの歯科所見を収集し、事前にデータベース化しておくことが大きな備えになります。静岡県歯科医師会はそのための準 備を進めてまいります。

会長 柳川 忠廣