平成23年3月11日の東日本大震災では、大地震と大津波によって、かつてない程たくさんのご遺体が発生し、身元の特定が難しい状況となりました。 ご遺体の個人識別に用いる人体の特徴には、歯科所見、指掌紋、DNA型などがありますが、身元確認作業が長期化したことから、主として歯科所見とDNAが 用いられ、とりわけ歯の情報の有効性がマスメディアを通じて広く報道されました。

2001年のニューヨーク世界貿易センタービルのテロではご遺体の約35%、2004年のタイの津波災害では約56%が歯科所見により身元が確認さ れたとの報告があります。歯は乳歯で20本、永久歯で32本ありますが、これら全ての歯の状態が一致する確立は極めて少ないのです。年齢層によって差があ りますが、皆さんの歯の状態と全て一致する人は、確率的には1,000人~3,000人に一人しかいません。

最終的には、私たち歯科医師が、生前のカルテやX線写真などを取りよせて照合作業にあたりますが、その前段階として、ご遺体の歯科所見と生前のデー タから、「絞り込み」を、かなりの確率で行うことができます。実際に東日本大震災の現場でも、数百体のご遺体から数体の候補に絞り込む「スクリーニング」 が行われました。

起きないに越したことはありませんが、東海はもとより南海トラフ地震の被害想定では、十万人単位の被害(死者)が報じられています。その上からも、 これまでのように災害が起こってから歯科情報を集め始めるのではなく、事前に歯科所見をデータベース化しておくことができれば、身元確認の精度が高まり、 かつ作業が迅速化されることは言うまでもありません。

データベース化については、まずは県民の皆さんが、かかりつけの歯科医院で治療後の歯科所見(全ての歯の状態をコード化したもの)を登録する。次 に、歯科医院から直接、あるいは地域の歯科医師会を通じて、データを行政または第三者機関が運営するデータセンター(仮称)へ送信し保管する。さらに大規 模災害などが発生した場合に、データを抽出して身元確認のために活用する、というような流れを想定しています。

会長 柳川 忠廣