――― 蟻の穴から堤も崩れる「天下の難事は必ず易きよりなり、…千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ(韓非子 喩老)」

から、ほんのわずかな不注意や油断から大事が起こることのたとえ ―――

 

 年齢を重ねるごとに身体がいうことをきかなくなり、若いときと比べて衰えを感じることはありませんか?

 それは「年のせい」なのでしょうか。

 

 加齢とともに心身の活力が低下し、要介護になる危険性の高い状態を「フレイル」と言います。

これは「身体」の虚弱だけではなく、「社会性」や「こころ」の虚弱という多面的な要素がお互いに影響し合っています。

 いつまでも生き生きと暮らすためにはフレイルを予防することが大切です。そのためには、運動・食生活・社会参加といった「健康長寿のための3要素」を実践することにより、再び健康な状態に戻すことができます。

 

 最近、滑舌が悪くなった、食べこぼしをするようになった、飲み物にむせることがある、かめない食品が増えた、口が乾きやすくなった・・・これらは高齢期に体が弱っていく最も初期のサインです。 ほんの些細な症状であり、見逃しやすく、気が付きにくい特徴があるため注意が必要です。これらの不調を「オーラルフレイル 」と呼び早い段階での対応が必要です。オーラルフレイル は健康と機能障害との中間の状態で、可逆的であることが大きな特徴の一つです。早めに気づき適切な対応をすることで健康に近づけることができるのです。 お口の機能の僅かな衰えが進行すると、食欲が低下したり、食べられない食品が増えたりします。すると、咬む力や舌の運動が衰え、栄養や代謝量の低下を引き起こし、サルコペニアやロコモティブシンドローム 、認知症のリスクが高くなると言われています。

 ロコモティブシンドローム(運動器症候群)とは、骨や関節、筋肉など運動器の衰えが原因で、歩行や立ち座りなどの日常生活に障害を来たしている状態のことをいいます。その中でも加齢により筋肉量が減少してしまう現象をサルコペニアと呼び、ロコモティブシンドロームの入口と考えられています。これらが進行すると転倒、活動度低下が生じやすくなり、要介護状態につながる可能性が高くなります。

 階段を昇るのに手すりが必要である、支えなしには椅子から立ち上がれない、15分くらい続けて歩けない、転倒への不安が大きい、この1年間で転んだことがある、片足立ちで靴下がはけない、横断歩道を青信号で渡りきれない、家のなかでつまずいたり滑ったりする、この内、一つでも当てはまればロコモティブシンドロームの心配があります。

 残っている歯が19本以下で、かつ義歯を使用していない人は、歯が20本以上ある人と比較して、転倒リスクが最大で2.5倍にまで高まります※1。転倒すると、約1割の高齢者は骨折をします。骨折をきっかけにして、要介護状態になってしまうこともあります。特に下半身の骨折(代表的な骨折は「大腿骨頸部骨折」)は、寝たきり生活の原因になるため注意が必要です。実際「要介護」と認定される原因の約1割は「骨折・転倒」です。

 また、残っている歯が少なく、うまく咬むことが出来ない、咬む力が弱いなど咀嚼機能が衰えているほど記憶や学習能力に関わる海馬や、意志や思考の機能を司る前頭葉の容積などが少なくなってくる事がわかってきました。歯が無くなると、脳が刺激されなくなり、脳の働きに影響を与えてしまいます。健康高齢者では平均14.9本の歯が残っているのに対し、認知症の疑いのある人では9.4本と明らかな差が見られます※2。歯が無く入れ歯も入れていない人の認知症リスクは、残っている歯の数が20本以上ある人と比べて1.9倍。あまり噛めない人の認知症リスクは、良く噛んで食べることができる人に対して1.5倍と高くなっています※3。
( ※1※3 神奈川歯科大学 山本龍生  ※2 東北大学歯学部 渡辺誠ら )

 

 加齢や運動不足に伴う身体機能の低下や運動器疾患による痛み、軽微な外傷による骨折など多様な要因があいまって、バランス能力、体力、移動能力の低下をきたし、ついには最低限の日常生活動作さえも自立して行えなくなり、健康寿命の短縮、閉じこもり、廃用症候群や、寝たきりなどの「要介護状態」になっていきます。お口の衰えが身体全体、さらには精神的な部分や社会的な面も含めて、健康と大きな関わりがあるのです。一般に、介護が必要な状態にならないようにと、身体を鍛える、筋力を維持することに気を配りがちですが、健康を維持するためには、お口の機能が大切な役割を果たしているのです。

 

 高齢になっても豊かに楽しく過ごしていただくために、「いつまでも自分の歯で、自分の口から食事をとることが最も大切なことである」との8020運動を推進して今年で30年経ちました。8020達成率は、運動開始当初は7%程度(平均残存歯数4~5本)でしたが、2016年では、達成者が51.2%(平均残存歯数15.3本)となり初めて2人に1人以上となりました。8020未達成でも、きちんと噛むことができる義歯(入れ歯)などを入れて口の中の状態を良好に保つことで、20本あるのと同程度の効果が得られます。たとえ総入れ歯でもしっかり噛むことができれば全身の栄養状態も良好になりますし、よく噛むことで脳が活性化されます。つまり、歯の数だけでなく口腔機能の維持管理がとても大事なことなのです。

 

 「食べる・話す・笑う」ことは、人の最も根源的な営みです。
 蟻の穴から堤も崩れる。 むし歯や歯周病を「まぁいいか!」で放っておくと、やがて大変なことになってしまいます。 静岡県歯科医師会は、「8020運動」に『オーラルフレイル対策』を加え、健康長寿をサポートしています。 若いうちから“かかりつけ歯科医”を持ち、定期的な口腔管理をしていきましょう。

地域保健部理事  大内 仁之