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「食べること」は「生きること」


団塊の世代が高齢者に達して、65歳を超える日本人の高齢人口の割合が約30%を超えます。この日本の高齢化は国民が医療福祉の充実により、長生き をするようになった結果でもあります。戦後に生まれた団塊の世代は、日本の経済産業の最前線で企業戦士として高度成長期を支えて来ました。生活水準の向上 により平均寿命は男性79.59歳、女性86.35歳ですが、昭和22年から24年に生まれた810万人が長生きするともう少し伸びます。しかし、健康で 概ね自立出来る健康寿命は平均72歳であり、健康で生活している時期と寝たきり等で介護に頼る期間の差は約10年間あります。高度先進医療や介護施設の充 実で平均寿命が延びていますが、本来は一生元気で自立した生活すなわち健康寿命が延びることが望まれます。

政府の諮問機関である社会保障制度改革国民会議によると、高齢者社会に伴って年金、医療、介護などの社会保障給付は、既に年間100兆円を超えてい ます。さらに、制度改革の全体像、改革の具体策に少子化対策、医療・介護の改革、年金分野の改革とに区別しています。全体像の報告の中では基本的な考え方 として、自助・共助・公助の最適な組み合わせに、国民は自らが働いて自らの生活を支え、自らの健康は自ら維持するという「自助」を基本とします。生活上の リスクに対しては、社会連帯の精神で共同してリスクに備える仕組みである「共助」が自助を支えます。自助や共助では対応出来ない困窮などは、条件を定めて 「公助」が補完する仕組みとしています。毎年増え続ける社会保障の対策には、給付の重点化・効率化・負担の増大抑制の不可避を強調しているが、巨額な負担 を生みながら財政運営を実施しています。その負担を後世に付け回すことが無いように、現状を現役の世代で確保する為に、消費税の増税が論議され来年4月に 予定されています。増税分は社会保障制度の財源として全て充てられる事になっているが、きちんと実施されるのかしっかりと政府の動向を監視したいと思いま す。

国民会議の報告では「自助」即ち、自らの健康は自分で守ることが基本であると述べています。健康で毎日を暮すことは、万人の望むところであり人生の 最高の喜びです。ある行政機関が、高齢者に生活アンケート調査を実施したところ、地域で友人や住民同士で買い物、世間話や趣味のおしゃべり、旅行や一緒に 食事することが上位に掲げられており、元気に暮らす為の環境作りを行政に希望しています。特に、外出して友達とおしゃべりしながら食事をする事は至極の楽 しみであると言っています。

静岡県歯科医師会では、県市町の多くの自治体において「歯と口の健康に関する条例」を制定して県民の健康を守っています。歯科医療の役割は、口腔疾 患である齲蝕と歯周病の治療を行い、しっかりと噛むことが出来るようにすること。しかし、残念ながら歯を失った患者さんには義歯などを装着して咀嚼機能の 回復を図り、健康寿命を延長することです。更には介護状態などで寝たきりの方には、歯科医療の提供による口腔機能の維持や誤嚥性肺炎の防止をはかり、自分 の口で食べる人生を送って頂くようにQOLの向上を支援することです。歯科医療は「食べる事・話す事」が出来るようにすることで、「生きる力を支える生活 の医療」です。

厚労省と日本歯科医師会では、一生自分の歯で食べる事が出来るように、80歳になっても自分の歯が20本以上あれば食事が出来るように、1989年 から8020運動を展開しています。静岡県では地域の歯科医師会が地方自治体や住民と一緒になり、8020推進活動を続けており、歯科について学習された 「8020推進員」が各地域で活躍し、その数は7,800名に及びます。活動は高齢者への対策だけではなく、少子化対策として、妊婦の生活指導・健康相 談、幼児期の齲蝕予防。また、若年者の歯周病対策等の口腔疾患予防の啓発に取り組んでいます。

多くの方々にとって、人生の楽しみの一つは食べる事です。良い食材を求め素晴らしい調理をしても、噛んで食感を味わえなければ美味しいとは言えませ ん。例え残念ながら歯を失っても、義歯などを装着すれば咀嚼力はある程度回復します。食べることは、噛んで味わい生きることの素晴らしさを実感する瞬間で す。「食べることは生きること」なのです。

静岡県歯科医師会は、各種職業の方々と連携協力し、歯や口の機能を維持・向上することで、県民の皆様が健康で活力のある人生を暮せる社会の実現を目指して行きます。

 栗田省吾